私と嫁さんが付き合うようになって、娘とも仲良くやっていたのですが、ある日、娘が「ねえ、かずにぃ、将棋やろうよ!」と言ってきました。当時娘は小学1年生だったのですが、将棋は覚えたてで、やりたくてしょうがなかったんだと思います。

娘が初めてズルをした

娘は「駒落ち」ってものを知らなかったらしく、お互い同条件・ハンデ無しの「平手」で打ち始めました。私は小学校時代、学校の将棋クラブに入っていたので、将棋はそこそこ知っています。娘は1年生ということもあり、終始私が有利な展開でした。まあ、子供相手に大人げないですが、その後に駒落ちでやってあげればいいかなと思っていたんです。娘は、だんだんと不機嫌になっていたらしく、無口になっていきました。

そして、ちょっとトイレに行きたくなって私が席を立って帰って来て盤面を見た時。「何か違うな・・・」と感じました。そして良く見ると、私の飛車の位置が違ったんです。私が居ない間に、娘がズルをして動かしたのでした。

「あっ、ズルをしてる。これは叱る場面なのか?」と思いましたが、それまで楽しい時間しか一緒に過ごしてこなかった娘に、どう叱ればいいのか、私はわかりませんでした。そして1分ほど沈黙が流れた後、

「この飛車、ここじゃなかったよな?」

「あっ・・・、うん・・・。」

と、これだけ会話をして、飛車を元の位置に戻して、重い沈黙のまま将棋を指し続け、私が勝って終わりました。娘は、逃げるように部屋を出て行ってしまいました。

この時はとにかく面食らいました。それまでただただ楽しく過ごしてきて、素直で朗らかな良い子である娘の姿しか見てこなかったので、こういうズルをするなんて想像もしていなかったんです。

ただ、普通の小学2年生なら、これくらいのことは我慢できずにやっちゃっても、まあ普通ですよね。悪いことですけど、それを悪いことなんだと腹に落ちるレベルで理解するには実際の経験が必要。その経験を、この時娘は積んだんだと思います。

私はこの時叱れなかったわけですが、やはり叱るのって難しいです。こういう場面に出くわすと、大人としては怒るというよりも戸惑います。そして「どう叱るのがこの子の教育上良いんだろう」ということを考えたくなります。でも、考えていると叱るべき場面が過ぎ去って叱るタイミングを失ってしまうので、ある程度反射的に反応して叱らなければなりません。これは、大人の側から見ると結構なプレッシャーです。

それでも、私の場合「お前がズルをしたことを私は知っている」ということは娘に伝わったので、娘自身の罪悪感を強く刺激できたんだろうなと思います。きちんと叱れなくて不本意だった思い出ですが、娘はその後、ゲームでズルをすることは無くなりました。いわば私の足らないところを、娘の道徳観がそこそこあったおかげで、娘自身で消化&吸収してくれたんですね。

まあそんなわけで一応丸く収まりました。これが、私が初めて娘を叱ろうとして叱れなかった思い出です。